PROJECT 1

「外科医療用
スリムアタッチメント」
開発プロジェクト

PROJECT
MEMBERS

  • サージカル・
    マーケティング部
    Y.S.
    JOINED IN 2014
  • サージカル設計部
    T.E.
    JOINED IN 2016
  • サージカル設計部
    T.T.
    JOINED IN 2006
  • サージカル設計部
    Y.T.
    JOINED IN 2015
  • サージカル・
    チップ製造部
    T.S.
    JOINED IN 2018
CHAPTER 1

外科医の
切実なニーズを
かたちにする。

どうしてそれが必要なのかは理解できた。応えるためには新しい機能を加えなければいけない理由も。そこには外科医の切実なニーズがあった。ただ、成功までの道筋は自分たちで見つけなければならない。未知の製品開発を行う難しさと、諦めずにやり遂げた先にある達成感。この新たなスリムアタッチメントの開発にエンジニアたちはどんな想いで挑んだのか。

スリムアタッチメントとは、ハンドピースに装着して外科医が骨を削るために使用する。人体を想像してみてほしい。骨の周りには複雑な神経組織がある。先端の丸い部分を高速回転させ、ピンポイントで骨を削っているのだ。神経組織を巻き込まずに削っていくには、熟練の技術が必要なのは言うまでもないが、安心して使える器具を手にしているかはとても重要である。ナカニシのアタッチメントは、超高速回転技術がベースにあるため、回転安定性が他とは比べものにならず、優れている。それをさらに進化させてほしいことが外科医からの要望だ。視認性・アクセス性・操作性を向上させるための機能の追加である。今までと大きく違うところは、バーの露出している長さを可変できるようにする画期的な機能だった。

この開発プロジェクトを担当し、ナカニシとして新しい試みを進めていったのが、サージカル設計部のメンバーである。マーケティング部のY.Sは、脊椎が見えるようにくり抜かれた人体模型にアタッチメントを差し込み、外科医が何を求めているかを設計メンバーに説明してくれた。
「内視鏡を使う手術、それも椎間板の横から差し込んで骨を削っていくと、突起物に当たってこれ以上削れない。あと少しというところで届かない。バーの露出長さを確保できれば深くまで削ることができるんです」
元々のアタッチメントが使いにくいわけではない。そのままでも削れる箇所はある。ただ削る場所によっては届かない。その長さがほしいのだ。そうなるとバーは露出長さを可変できることが望ましい。「露出長さのバリエーションはいくつ必要?」設計部のT.Tは質問する。「元の長さがこれだとすると伸ばし切って2倍。一段階ずつ伸びていくとして6段階を想定している。当然それに伴う強化もする」とY.Sは答える。そしてナカニシの技術ならそれが可能のはずだと背中を押す。手術の場面に応じて最適な長さに調節できるアタッチメント。言葉にすると簡単だが先端にはドリルがあるため耐久性や安定性に影響がでる。それをどうするかだ。

READ CHAPTER 2
CHAPTER 2

手に伝わる
振動が大きい。
部品から
設計し直す。

「最初に技術的な難易度がどのくらいかを考えます。露出するバーの長さを変えられることが必要なら、どういう機構を設けたらそれができるんだろうと。想像がつくような部分もあれば、想像がつかない部分もあります」完成形をどれだけ具体的に想像できるかで難易度は決まると、サージカル設計部のY.Tは言う。頭の中で何度も何度も想像する。製品が作動する様子まで。そのイメージを固めてくれるのが3Dモデルだ。これでかたちは見えてくる。それでも不確定な部分はある。試行錯誤を繰り返しながら正解を探す。「作ったことがない製品だから正解はわからないのですが、どれぐらいの強度だったらいいのか、どれくらいの長さがいいのかを数値化していくと、最適なバランスが見つかるんですね。地味な作業なので時間はかかりますが、ここじゃないかと見つかった時は、目の前に道が開けた感じです」と、実直に語ってくれるのはT.Eだ。そして、自分たちだけでは解決できなかったとき、やはり頼りになったのはベテランの先輩達だ。ナカニシは実力主義。若くても実力さえあれば一から製品作りに参加できる。先輩と一緒の現場に立てるのだ。そこに上下関係はない。だから仕事で行き詰まった時、理に適ったアドバイスをもらえる。そうやって一歩一歩進めて、ようやく図面が完成する。

発注を受けて試作品が完成したのは一年後。イメージしていたものがかたちになった。なんとかなった安堵感がある。あとはどう作動するかだ。スイッチを入れて手にした時、T.Tの顔が曇った。「要求に対してギリギリの振動、回転で設計したこともあって、手に伝わる振動が予想以上に大きかったんです。外科手術は繊細ですし、それこそ神経の間を入っていったりしますから振動は少ない方がいい。そう考えるとこれでは製品化はできない」素人が触れるとその振動の差は僅かもしれないが、より完璧を目指すのがナカニシのプライドだ。サージカル設計部のメンバーは原因を究明する。「バーの長さをスムーズに軽いタッチで可変できるようにしたら、今度はアタッチメントの振動が大きい。あっち立てればこっち立たずで。両立させるにはどうしたら良いのかを徹底的に話し合いました」そして出た答えは「部品から新しく設計し直そう」。それがどれだけ大変なことかは皆わかっている。製品によっては流用できる部品があればそれを使用する。しかし、それでは完成しないと判断したのだ。部品を新しくするということは、組み立て方まで新しくなるが、図面上の計算では間違いなくいける。設計部のメンバーは手応えを感じていた。しかしまた壁が立ちはだかる。

READ CHAPTER 3
CHAPTER 3

低侵襲の手術が
できる器具を
世界中の外科医へ。

設計部から図面を受け取り、組立を担当するのはサージカル・チップ製造部のT.Sだ。心中穏やかではなかった。彼は若手のホープ。組立の工程をサポートすることはあっても製品を一から組んだことはなかった。緊張したくなくても緊張する。「部品を新しくしたと聞いて焦りました。組み立ての手順が違う。部品を前にすると見たことがないものもあるし、明らかに数が多い。でも一つ一つ作業指示書を見ながら組み立てていきました」細かなパーツをたくさん手作業で組んでいく。彼は異変に気づいた。どうやってもスムーズに組立ができない箇所があって、色々と治具を試しても出来なくて。ナカニシは各部門の敷居がなく疑問が生じたらすぐそれを伝えられる。
「この設計でいけると思っても、組立の工程で難易度が高くなる場合がある。この設計の部品で、どうやって、早く、間違いなく組み立てることができるのか、と先輩から言われてしまって。あの時は途方にくれました。」Y.Tは懐かしみながら言う。ここでも突破口になったのは、組立工程を想定した設計の重要性に関する、先輩のアドバイスだった。こうやって若手は現場で学んでいくのだろう。

3年もの歳月を経てようやく新しいスリムアタッチメントは完成した。「新たな機能を加えたことで難易度が増し、時間はかかりましたけどなんとか製品化できました。手にした時の感触まで改良を加えましたから、扱いやすくて、使いやすい。早く手術が行える。そういった感想をいただけました」と外科医の要望に答えることができて皆喜びを隠せない。手術器具は外科医の手足。思い通り動いてくれる器具と出会えるかどうかで手術の成功率も変わる。ナカニシへの期待は高まる一方だ。
「低侵襲の手術ができるような器具とかを揃えていれば、患者さんの負担が減るし、外科医の負担だって減ります。そのいい例がこのアタッチメントです。改良できるモノはまだまだあるし、世界の外科医は常に最良の器具を求めています。高速回転技術と精密加工をコアにしたナカニシの技術を持ってすれば、サージカルの分野でも画期的な製品を生み出せます」この製品の開発に並々ならぬ想いを持っていたT.Eは、最後にこんなことを言った。「ナカニシは、製品の開発から販売まで携われるんですね。設計担当だからといって図面を書いて終わりじゃない。製品を外科医に届けて使ってくれる所まで見届けられる。その達成感は他では味わえないと思います」