PROJECT 2

「歯科医療用
エアタービン」
開発プロジェクト

PROJECT
MEMBERS

  • 歯科設計部
    Y.I.
    JOINED IN 2012
  • 加工部
    K.O.
    JOINED IN 2001
  • 組立部
    T.U.
    JOINED IN 2009
  • 組立部
    S.U.
    JOINED IN 2016
  • 生産技術部
    K.T.
    JOINED IN 2008
CHAPTER 1

世界一の
ハンドピースを
さらに進化させる。

大人の男性、女性、そして子供、それぞれ顎の大きさは違う。なのに同じサイズのハンドピースで治療するのは本来無理がある。特に奥歯。ヘッドが深く入らない。小さくできないか。これが歯の治療現場から聞こえてくる次世代製品への要望だ。しかし、ヘッドが小さいと、パワーの伝達が減少する。どの企業が先にその問題を解決した製品をつくるのか。待ったなしの開発が始まった。

そもそもプロジェクトには二通りある。トップダウン型とボトムアップ型。トップダウンは社長から指示を出し製品を作るもの。しかし、このプロジェクトは従業員側から社長への提案のボトムアップ型である。歯科医院に協力を仰ぎ、歯科医師の訴えた困りごとの資料をかき集め現場から中西社長を説得した。リーダーである歯科設計部のY.Iは、他社が真似できない製品開発ができる自信があった。「ナカニシといえばハンドピースじゃないですか。世界の歯科医療現場で最も使われている。だけど改良点が見つかった。完璧にしてやろうと思いましたよ」彼の設計は評価が高い。部品加工を20年以上経験している加工部のK.OはY.Iの凄さをこう言った。
「Y.Iの設計を金属に転写するのは、難度が高い。図面が複雑で形のイメージがつかみにくい。さらに、QCDのバランス取りながら実現させるためにどうしたらいいか、いつも本気で考えさせられる」これは天才肌の設計士であるY.Iに相当振り回されながら仕事をしているんだろうなと気の毒になってしまった。しかしそれは違った。

「メンバーとコミュニケーションを取るためにどういうことするかっていうとパラパラ漫画をつくるんです」このようにY.Iは絵を用いて伝え方を工夫し、わかりやすくしていた。「丸棒はまずここを加工します。次にここを加工しますと順を追って説明して、最終的にこの形になります。こうやればできますけどどうですか」と、最初に見せると言う。「だったらこういう順番の方がいいよ」と提案し、ディスカッションが始まる。いきなり「どうしましょうか」では、全然話が進まない。伝えることを徹底したのはこの製品がそれだけ難しいからだ。設計も加工もメンバー全員が同じ理解をし、ギリギリのラインを追求しているからこそ良い製品が開発されるのだ。設計図が難解なら組み立てる時はもっと苦労するのではないかと。組立担当のS.Uに訪ねた。「いや、組み立ては全くシンプルなんです。組立では、量産化されると色々な人が組立作業を行います。だから、誰でも組めるようにシンプルでなきゃならないんです」と意外な答えが返ってきた。その通りではあるのだが、開発担当者は全ての工程を熟知してなければ無理だと思わざるを得ない。

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CHAPTER 2

幻となった初号機。
その理由とは。

精密機器を手で組み立てる。それが簡単ではないことは容易に想像がつく。何をもって簡単だと判断するのだろう。生産技術部のK.Tにも聞いてみた。「製品ごとの細かな調整。わずかなずれが組立時に組みにくくなる。組み方、入れ方一つにしても、すんなりスッて入るものもあれば、ちょっときつくて真っすぐにしないと入らないのは組みにくい。設計図では上手くいっても組んでみたら調整が必要というのはよくあるんです」と、それが常識であるかのように言う。K.OがY.Iの設計図の真髄を教えてくれた。「全ての寸法に根拠があるんです。なぜここに厳しい精度が必要なのか、譲ることが出来ないのか全てに明確な理由があるんです」それができてしまうのはなぜか。おそらく知識の蓄積量だ。開発部門に配属された若手は試作品の試験を担当する。先輩がつくった試作品を測定して問題があれば報告する。原因を調べると良くない箇所が必ず見つかる。それを自分の知識としてY.Iは吸収してきた。それがベースにあるから問題解決のスピードが人より早いのかもしれない。順番は前後するが、まず3Dプリンタで製品の形を確認してから、図面を作成して試作を依頼。加工した部品を組んで試作品をつくる。ここまで何一つ問題なく進むプロジェクトも珍しい。ところが思ってもいなかったことで失敗する。

初号機と呼ばれる試作品ができた。協力をお願いした歯科医院の先生方に使ってもらう。流体解析で良い結果が出て、動作も問題なかった。社内の評価も高く、これはいけるとメンバーの誰もが思っていたが返ってきた感想は芳しくなかった。Y.Iは冷静に振り返る。「確かにヘッドが小さくなって奥歯はやりやすいけど、前歯はやりづらいよとか。元々の要望に持ちやすくしてくださいとか、全ての歯をやれるようにしてくださいっていうのはなかったんですね。でも当然先生たちは、今まで通り使えることが大前提なわけです。その大前提ができてないということで作り直しになってしまいました」メンバーには何の落ち度もない。ハンドピースのヘッドを小さくする。ただしパワーはダウンさせない。それが要望だった。だからハイパワーを出力するタービンを設計した。握りやすいバランスを追求した。簡単に組めるように部品を加工した。何度もテストを繰り返した。その全てが白紙になるのだ。だがメンバーが落胆したのは一瞬だけだった。気持ちを切り替えてミーティングで改善点を洗い出す。60点あるうちの20点の部品を変えれば、前歯にも奥歯にも使えるかたちになる。成功のイメージは描けた。あとはもう一度つくるだけだ。

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CHAPTER 3

加工の精度こそ、
ナカニシの
根源的な強み。

初号機は幻の傑作となったけど、2号機は先生方のチェックもクリアした。量産試作フェーズを通してついに完成。大量生産が可能な製品になって世の中に出ていく。ミニヘッドにクラストップの20Wのハイパワーを搭載したハンドピースの誕生だ。ひとまわり小さくなって大きな進化を遂げて生まれ変わったのだ。ハンドピースが術者のカラダの一部になったような操作感とより繊細な施術を可能にする切削感を実現した。洗練されたスリムなボディーシェイプには、ハンドピースのエキスパートであるナカニシが長年培ってきたノウハウとテクノロジーが詰まっている。
プロジェクトが成功した理由は何なのだろう。組立部を代表してT.Uが答えてくれた。「他部署の方との連携がすごく取れているので、現場で問題が起きてもすぐに対応していただけるんです。作業者が組みやすいように開発の方や製造技術・生産技術の方がすぐに改善してくれたりしますから。その一致団結による力だと思います」開発、製造、販売の三位一体の体制がナカニシのモノ作りの基本だ。ほんとうに一体となったプロジェクトだったのだろう。

最初はY.Iを中心にチームが動いているのかと思ったがそうではない。全ての部門がベストな状態で仕事をして、部門の連携重視で進めている。だからスピードも速い。何よりそうしないと競合に勝てない。そのことをみんなわかっている。そしてY.Iの設計力が並みじゃないことも。ナカニシでは実力があれば若手でも重要なプロジェクトのリーダーを任せられる。かといって誰が上とか下とかはない。フラットな組織なのだ。ナカニシの強みとは何か。超高速回転をコアにした技術力が売りであることは誰もが認める。それを一番にY.Iも上げるかと思ったら違っていた。
「根源的な強みとなると、加工精度です。これは断言できます」その言葉に呼応するかのようにK.Oは「世界一のモノを作る時、その足かせが加工精度であってはならない。世界一を実現するための強みが加工精度でありたいし、あり続けなくてはならない」と熱のこもった名言をくれた。
ナカニシの採用スローガンは「世界一の回転で、世界初をつくれ」だ。この言葉に怯むようじゃダメだ。でも一歩踏み出す勇気があれば何でもできる。同じ人間にできてやれないことはない。それぐらい強気な人をナカニシは受け入れる。実力はあとでつければいい。